アーチャーの過去

 アーチャーこと英霊エミヤの過去に関して、本編から得られた情報より可能な限り推測してみる。

 まず、本編のどのエンディングの士郎の未来であるか、という考え方をしている人が多いかもしれないが、実際には恐らくいずれも該当しないのではないかと私は思う。

 理由としては、アーチャーが過去の世界に召喚されるという事によって過去の自分を抹殺するチャンスを得られる可能性は僅かなものであったとされる描写が存在する事。
 もしも彼が士郎だった頃の聖杯戦争にエミヤが召喚されていたのであれば、少なくとも前例を目にしていた事になるのだからそのように判断する可能性は低いだろう。
 よって、アーチャーが士郎だった頃に参加した聖杯戦争においては英霊エミヤは召喚されていなかっただろうと私は考えている。

 また、Fate/stay night雑記の13にて書いたタイムパラドックスに関する話で述べたように、そもそも本編のアーチャーと士郎は同一人物とも言えるが異なる世界の住人であるが故に厳密には別人である。
 よって本編の士郎が将来英霊エミヤになる事があったとしても、やはり本編に登場した英霊エミヤとは別人だという事になる。

 しかし、本編のいずれの士郎の未来でも有り得ずとも、いずれかの士郎と似た歴史を経たという可能性は考えられるかもしれない。
 とりあえず、アーチャーの過去を推測する根拠足り得ると思える事柄を出来るだけ以下に挙げてみる。まずは本編に登場した各キャラとどのような関係にあったかに関する推測をキャラ毎に列挙してみる事にする。

 ■セイバー
 以下の四つの事柄から、彼も士郎であった頃にセイバーと深く関わりを持っていたという事を推測できる。

 ・セイバーと聖剣の真名を知っている
 これに関しては敢えて特筆すべき事はないと思う。

 ・のみならず、彼女の目的も知っている
 セイバーに対していつまで間違った望みを持っているのかとか、まだ守護者ではなかったな、といった言葉をかけている場面が存在する。

 ・鞘が衛宮士郎の体内に存在する事を知っている
 凛ルートでのアインツベルン城での士郎との決闘中のセリフからこの事がわかる。

 ・セイバーがいずれ開放される事を知っている
 と同時に恐らくは次に関わるのも自分なのだろうと固有結界展開前に言っていた。
 という事は、彼は彼女が結局守護者にはなっていない事から「最終的には解放されたのだろう」と推測しているだけであり、彼が士郎だった頃にはセイバーは解放されなかったという事だろうか? 例えばセイバールートのように士郎と意見が食い違ったまま聖杯戦争が終結し、別れたとか。
 ただしこれは「解放」がセイバールートのように間違った望みを正される事を指しているという仮定の上での話ではあるが。
 更には当時のアーチャーが英霊エミヤではなかったという仮定にも基づく。つまり、実際にセイバーが解放される場に英霊エミヤが関与していなかった。
 もしもそうであるのならば、アーチャーは鞘を投影しなかったのではなく出来なかったのだという可能性も考えられるかもしれない。
 そして以上の推測をもしかしたら裏付けているかもしれない事柄を以下に。

 ・セイバーを救えなかったらしい
 凛ルート終盤のギルガメッシュとの戦闘時における士郎の以下の言葉。

 >「―――おまえを救う事が、オレにはできなかった」

 >そうして言った。
 >俺が彼女と過ごした時間、ヤツが彼女を思っていた時間を、せめて代弁できるように。


 「代弁」している。「オレ」という一人称。士郎の一人称は本来「俺」。アーチャーが時々素に戻った時は「オレ」。
 ……恐らくはアインツベルン城での戦闘時にアーチャーの記憶の一部を得ていた為、彼は上記のような言葉をセイバーにかけたのではないだろうか。
 「救えなかった」というのは桜ルートのように序盤で戦闘において敗退したような事を指しているのではないだろう。それは上記の引用文の後に続くやりとりからも読み取れる。
 また、鞘を知っているのだから序盤でセイバーが敗退していた可能性はかなり低いと思われる。


 ■イリヤ

 ・イリヤに負い目がある?
 桜ルートでは彼女に申し訳なさそうな視線を送っていた。
 また、

 >イリヤの手を取ったからには、最後まで守り通せ

 この言葉を士郎にかけた後、アーチャーの強さは鬼神めいていた。彼が経験した歴史において、イリヤは聖杯戦争中に死亡したのだろうか。それとも聖杯戦争終了後に寿命が尽きたという事なのだろうか。何れにせよイリヤが長く生きられなかった事が心の傷になっているという可能性は考えられるかもしれない。

 もしやセイバールートでバーサーカーに敗れた要因の一つに、イリヤを狙えなかったという事があったのではないだろうか。
 凛ルートにおいてのバーサーカーとギルガメッシュの戦闘では、ギルガメッシュの攻撃がイリヤに当らないようかばっていた事がバーサーカーの敗因のひとつでもあった。よってアーチャーもイリヤを重点的に狙えば勝率はもっと上がっていた筈だろう。
 そういえば凛ルート冒頭のバーサーカー戦でもイリヤを狙ってはいない。同じく敵マスターであった葛木は普通に狙っていたにも関わらずである。

 また、アインツベルン城での決闘で以下のようなくだりがある。

 >その手で救えず、その手で殺めた者が多くなればなるほど、理想を口にする事は出来なくなる。
 >残された道は、ただ頑なに、最期まで守り通す事だけだった。


 セイバールートでもしもイリヤが救えなかったらどうなっていただろうか。士郎ならばイリヤに限らず敵対した者達の死ですら避けたいと考えるのだろうが、味方の、しかも短い間とはいえ共に過ごした者の死はより大きな傷となる筈である。
 考えてみれば、そういった「身内が犠牲になる」という出来事を士郎は、桜ルート以外では経験していないに等しい。
 凛ルートでのイリヤの死は、もしもセイバールートにて同様の出来事が起こった場合や桜ルートにおける結末とは違って、まだ他人の死に近い。
 桜ルートの士郎の場合はその考え方が過去とは大きく異なるが故に、この人だけは守ると決めた相手である桜さえ無事ならばどうにかやっていけるだろう。
 養父である衛宮切嗣の死に関しては身内の死であると言えるが、自身の力不足によって「犠牲」となった場合と比較すれば心の傷はそう大きくはない(あくまで比較した場合の話)だろうと思われる。
 十年前の火災に関してはそれ以前の記憶にふたをしたとの事であるから、肉親をはじめとする親しかった人達の死という事実に関しては恐らく知識としてしか存在せず、実感は出来ないだろう。
 尤も、引用した言葉だけでは「イリヤを救えなかった」という具体的な過去の裏付けにはならないのだが。

 ・イリヤの正体を知っていた?
 アインツベルンの森からの逃走時、イリヤは運動に向かない、そのように作られてはいないという士郎が知る筈のない知識が浮かび上がってくる。恐らくこれはアーチャーの腕から流れてきた情報なのではないだろうか。

 ・イリヤが衛宮士郎より年上だと知っている?
 ヘヴンズフィールのストーリーにおいて、イリヤの方が自分よりも少しだけ年上だと士郎が知る機会は、私が見落としていないのであれば存在しない。やはり可能性があるとしたら「腕」の記録からなのではないだろうか。
 そもそもあの段階で士郎自身の記憶はホトンド失われている。アーチャーは士郎だった頃、イリヤとはその生い立ちや本当の年齢を知り得るほどに深く関わったのではないだろうか?
 仮にそうだとすると、この場面でホトンド記憶をなくしていた士郎がイリヤの事を思い出せたのも、アーチャーの腕のおかげという解釈も出来なくもないかもしれないが、裏付けはない。
 同じ解釈で黒化セイバーに一対一で勝った時に彼女の名前を思い出せたのも腕のおかげ、とする事も可能かもしれない。こちらも裏付けはない。

 ・アインツベルンの城を知っている

 >「郊外の森……そうか、アインツベルンの城があったな。確かにあの城ならば邪魔は入るまい。
 >―――ふん、いい覚悟じゃないか衛宮士郎」


 どのような経緯でアインツベルン城に赴いたのかまではわからないが、少なくとも彼は士郎だった頃にこの城の場所を知る機会があったという事だろう。
 また、「確かにあの城ならば〜」というくだりから察するに、実際にそこに行った事があるようである。


 ■ライダー
 凛ルートにおけるライダーの死後、遅れて駆けつけたアーチャーは

 >脱落したのはどのサーヴァントだ?

 と質問している。これに対する

 ライダーであり、一撃で倒されていたらしい」

 といった内容の回答を受けて

 >所詮口だけのだったか

 と返している。

 赤字表記した部分に注目していただければおわかりいただけるかと思われるが、アーチャーの質問もそれに対する回答も、性別に関しては言及していない。このやり取りから察するに、アーチャーは元からライダーのサーヴァントが女性である事を知っていたと考えた方が自然であると思う。また、

 >勝ち抜ける器ではないと思ったが、よもやただの一撃で倒されるとは。
 >まったく、敵と相打つぐらいの気迫は見せろというのだ


 とも言っている。
 この言葉から察するに、彼は生前衛宮士郎として聖杯戦争に参加した際には、勝ち抜ける器ではないと思えるくらいにはライダーを深く知っていたのではないだろうか。
 しかもかなり悪く言っているので当時は敵同士だったか、或いは逆に共闘した間柄であった事から今回味方に引き込む事を期待していたがあてが外れて落胆していたか、もしくは気に入っていた人間が成す術もなく敗れたという事実にやり場のない憤りを感じていたといった所なのか。色々想像する事はできるが正確なところは現段階ではわからない。

 なお、自身はマスターである事を慎二が凛に明かしてきた日、凛はアーチャーを家に置いてきていたので彼女に関してそこまで詳しく知る事が出来た可能性は低いと思われる。仮にこの時凛を通してライダーを見ていた(それが可能かどうかはわからないが)のだとしても、たった一度だけで「詳しく」知るのは難しいだろう。


 尤もこの一連の会話からだけではアーチャーとライダーの関係に関しては決め手に欠けるが、以下の事柄も考慮に入れればほぼ確定として良いのではないだろうか。


 ・ベルレフォーンを知っている
 桜ルートでステータス画面にベルレフォーンが追加されるタイミング。このルートでは一度も使っていなかったはずのベルレフォーンを何時の間にか士郎は知っていた。
 大抵ステータス画面が更新されるタイミングというのは、ストーリーの進行により新たな情報が明らかになった場合。しかし、桜ルートにおいてベルレフォーンは最後のセイバーとの対決で初めて登場するにもかかわらず、それよりもだいぶ前からステータス画面には表示されていた。
 そこで具体的にどの段階で知ったのか改めて調べると、どうも十二日目に道場で投影の訓練をやって記憶が飛んだ後であるらしい。
 つまり、桜ルートでは士郎が何処かでライダーのベルレフォーンを見たのではなく、過去にベルレフォーンを見た事があるアーチャーの知識を彼の腕から得たという事なのだろう。


 ■ギルガメッシュ
 凛ルートにおいてはじめてギルガメッシュと接触することになったアインツベルン城でのやり取りから察するに、アーチャーはギルガメッシュの名も、彼の能力も元から知っていたようである。だからこそ最終決戦を士郎に託したのだろう。
 ギルガメッシュが現れるまでの間に凛からそれらを聞いたという事は恐らくないだろう。そのような会話をするのは不自然であるし、仮にそうであったのならその場面の、或いはそういったやり取りがあった事を仄めかす描写があってしかるべきではないだろうか。
 プロローグの時点でギルガメッシュの姿を物陰から見た後に凛に問いかけられた場面ではとぼけていたか、記憶の混乱が収まっていなかった為本当に思い出せなかったかのどちらかといった所ではないだろうか。

 なお、桜ルートでアーチャーが記録している武器の数は千に届くと言われている。
 アーチャーの年齢は不明だが、高く見積もっても二十代後半から三十代前半くらいだろう。たかだか十年程度の間にそれだけの数の宝具を目にする機会に恵まれた人生というのは極めて特殊だと思う。もしも実際に彼の人生がそのような物であったのならば、凛がアーチャーの過去を夢として見た時にもその点に関して言及がなければ不自然なのではないだろうか。
 やはり士郎時代にギルガメッシュと戦い、彼の所有する多くの宝具を見たが故にそれだけ多くの記録が存在していたと考えた方が自然ではないだろうか。だからと言って彼が士郎であった頃の聖杯戦争時に固有結界を展開できたというのは流石に無さそうではあるが。

 ただし、例の剣の雨を一度や二度見た程度で記録した宝具の数が千に届くとも思えない。考えられるとしたら、

 ・凛ルートのようにギルガメッシュが強力なサーヴァントと戦闘している場面を見る機会があった
 ・ライダーの協力を得られた事によってかなり善戦する事ができた


 想像の域を出ないがこういった可能性などがあり得るかも知れない。
 また、以下のような可能性も考えられる。

 ・召喚の繰り返しによって記録が蓄積された

 英霊が他の英霊を知り得る理由と同じである。しかし、英霊は既に完成しているが故に成長しないとも言われている。よって召喚された分身が新たに学んだ事は本体には伝わらない。この事から個人的には現段階では完全には肯定できない。
 ただ、本体は分身が見聞きした事をまるで本を読むような感覚で知る事が出来るという。直接見たわけではなくてもこれによって無限の剣製に記録が追加されるのではないかとも考えられる。つまり、本来「本」から得た知識は英霊を成長させるには至らないが、アーチャーはその特性故に例外的にこれによって成長するのではないかという考えである。
 しかし、現段階では「本」に例えられた情報がどのような物であるかに関する説明が足りないので結局のところなんとも言えない。


 ※以下はその他のメモをほとんどそのまま記載。後日時間が出来た時に再構成する予定。

 ・外套と聖骸布
 聖骸布が必要になる状況に陥った経験がある可能性。

 ・過去に片腕に大きなダメージを負った
 士郎の半身麻痺の状況を詳しく知っている。

 >「似たような経験があってな。私も始めは片腕をもっていかれた。新しい魔術を身につけるとはそういう事だ」

 新しい魔術=投影なのだろう。
 また、この何日か前に士郎は「右腕」が剣になる夢を見ている。

 ・ペンダントの魔力が空
 桜ルートの士郎同様第三魔法の成功例に該当するのか。そうでなかったにせよあの程度の魔力ですら必要とするような危機的状況に陥った経験があるのは確かだろう。

 ・腕の中にはアゾット剣の記録もあった
 アゾット剣は魔術師の世界ではありふれているようなので断言は出来ないが、やはり凛の物?

 ・柳洞寺陣営の詳細は知らない
 凛ルートにて柳洞寺に誘き寄せられた士郎を救出した場面におけるキャスターとの会話内容から察するに、そう解釈した方が自然だろう。
 また、士郎がアーチャーの腕を移植された後、その記録の中にルールブレイカーは存在しない。桜ルートでは話の構成上、敢えて士郎に直接キャスターのルールブレイカーを見せたのだから、やはりアーチャーの腕にその記録は存在しないと解釈した方が自然だろう。

 ・聖杯戦争のシステムを誰が作ったかは知らない
 凛ルートで衛宮邸まで送られた際の会話より。少なくともアーチャーが経験した歴史は桜ルートに近い物ではなかったのかもしれない。

 ・ランサーの投げるゲイボルクを見た事は無さそう
 ランサーがこれを繰り出そうとしている場面では、予めそれを知っていると言うよりは自分の知識にある伝説の内容を参考にした結果、ローアイアスを使用するのが最善と決断したように思える。

 ・黒鍵を見た事は無さそう
 桜ルートにおいて、腕の中にその記録は見当たらなかった。単に画面には出てこなかっただけであったにしても、初めて黒鍵を見た時の士郎のリアクションを見るに、やはり腕の中にもその記録は無さそうに思える。
 よって、生前代行者との繋がりはあまりなかったという事になるのだろうか。或いはたまたま黒鍵を使う代行者に知り合いが居なかったか。

 ・紅茶をいれるのが上手い
 士郎は特にそういうスキルは持ってなさそう。身に付ける意思があるようにも見えない。どのような経緯を経て身に付けたのかとなると、サイドマテリアルの用語辞典によれば、士郎は凛ルート後にルヴィアさんの屋敷で執事をやっているらしい。アーチャーにもその経験があったのかもしれない。
 凛ルートに限らず凛以外の女性と深い仲になっておらず、凛とそれなりに交流があったのなら、彼女が士郎を学院に連れていく可能性は有り得ると思う。正義の味方を目指す士郎にしても魔術の腕はできるだけ磨いておきたいだろうから願ったり叶ったりだろう。

 ・どのような最期を迎えたか
 アインツベルン城にて以下のように語っている。

 >「ああ、そうだったよセイバー。確かにオレは何度も裏切られ欺かれた。救った筈の男に罪を被せられた事もある。死ぬ思いで争いを収めてみれば、争いの張本人だと押し付けられて最後には絞首台だ。
 >そら。オレに罪があるというのなら、その時点で償っているだろう?」


 ・エーデルフェルトの双子館の内、妹の方を知らない
 「Fate/hollow ataraxia」の「探偵二人」における彼の言葉より。存在すら知らなかったという。

 ・凛によって歌に出るような橋から冬のテムズ川に落とされた事がある
 「Fate/hollow ataraxia」の「常世の橋・右」における彼の言葉より。

 ※以下作成中


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