武は何故記憶を失わなかったのか

 武もまたホクトと同じくブリックヴィンケルの視点となっていたにも関わらず、何故記憶を失わなかったのだろうか。この疑問を解く為にまず武とホクト、それぞれの視点で世界を見ていたブリックヴィンケルの違いを考えてみることにする。

 まず、ブリックヴィンケルは遍在する。武視点の彼も少年視点の彼も別の存在でありながら同一の存在でもある。この事を踏まえて。

 武視点のブリックヴィンケルはただ単に目の前の出来事を見ていただけだろう。ココシナリオ終盤で少年視点から2017年へと移ってきて、そこで起きている出来事を見ていたブリックヴィンケル自身が、自分はただ感情もなく見るだけの存在であると、そのような事をモノローグで述べている。本来の彼はそういう存在だという事だろう。
 つまり、武の視点に重なっていたとはいえ結局のところこの時のブリックヴィンケルは、彼本来の在り様と同じく四次元存在として目の前で起きている出来事をただ見ていただけだったのだろう。
 ところが少年視点においてはどうか。こちらは優春の計画によって意図的に重ならされた。しかもこれによって彼は自分が三次元的存在であると錯覚させられた

 つまり、両者の相違点とは自分が四次元存在として自覚しているか、三次元存在だと思いこんでいるかの違いだったのではないだろうか。
 よってホクトは「ホクトは何故記憶を失ったのか」でも述べたような理由で記憶を失ったが、対して武側のブリックヴィンケルはそれまで通り、自身は四次元存在としての自覚を失っていなかったからこそ武になんら干渉せずに済んだと、そういう事だったのではないだろうか。
 実際ホクトはブリックヴィンケルと重なってしまった結果他の世界を見る事が出来るようになっていたが、武の方にはそのような事はなかった筈である。


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