槙久が志貴を引き取ったのは実の息子である四季と名前の読みが一緒だった、という偶然を面白がったというが、それだけでわざわざ敵対していた一族の子供を養子として引き取るとは少々考えにくい。なにか他にも理由はないだろうか? 考えてみた。
理由1:分家筋に対する牽制
槙久の手記の内容から察するに、七夜襲撃の際に軋間当主の手を借りたのは彼にしてみれば不本意であったと思われる。恐らく軋間に借りができる事によって遠野一族全体の中での軋間の発言力が高まる事を嫌ったのではないだろうか。それでも手を借りたのは七夜の戦力を考えると背に腹は代えられなかった、といったところであろう。
ようするに槙久は自分達遠野本家の地位は必ずしも安泰とは考えていなかったのであろう。そのために敵対勢力の生き残りを手元に置くことによって他の分家を牽制したのではないだろうか。
理由2:自身の危機感を煽って遠野よりへの傾斜を抑止する
遠野よりになると七夜の血が反応して志貴が襲い掛かってくる可能性もある。敢えてそういった状況を作る事によって自身の危機感を煽り、遠野よりにならないよう精神を強く保とうとした、という可能性もありうるかもしれない。
理由3:他の「天敵」に対するの牽制
七夜は滅ぼしたが他にも彼らの天敵たる一族は存在している。七夜を滅ぼし、その生き残りを手元に置くことによって天敵達に自分達の力を誇示し、その動きを牽制しようという考えもあったかもしれない。
理由4:七夜の呪いに対する抑止力
手記によれば秋葉の教育にあたっては「殺した相手の呪いを招き寄せるような事がないよう、教育しなければならないだろう」とある。実際秋葉はその能力によって四季の想念(ロア?)を摂り込んでしまい、結果暴走している。もしかしたら槙久の能力もそういったリスクを伴うタイプのものだったのかもしれない。
つまり七夜の呪いを少しでも軽減するために志貴を引き取った、という理由もあったのではないだろうか。
また、志貴は槙久の事をウマが合わなかったとはいえ悪人だとまでは思わなかったと言っている。もしかしたらわずかながら罪の意識があったのかもしれない。
理由5:たまたま手の届くところにいたから
4つほど可能性を考えてはみたが、どれも動機としては少々弱いかもしれない。これらのうち全ての理由があてはまる事もあるかもしれないが、特にどれかというならば理由1だろうか。理由2に関しては琥珀・翡翠がいた事から少々弱いかもしれない。まあ、おまけ程度だろうか?
ちなみに志貴が四季に殺されてもそれほどショックは受けていなかったようである事から、槙久にとって志貴は琥珀・翡翠のように必要不可欠な存在、というほどでもなかったと思われる。よって実際槙久が志貴を引き取るのにさほど強い動機はなかったのだろう。
このような背景から槙久は、志貴がたまたま手の届くところにいたからついでに引き取る気になったのだと思われる。もしも志貴を手に入れるのに困難を伴うようであれば恐らく見向きもしなかっただろう。琥珀・翡翠ならば多少無理をしてでも手に入れようとしたかもしれないが。
結論として槙久は、
■七夜襲撃の際たまたま生き残り、手に入れるのに困難を伴わない状況であった事
■たまたま彼にとって引き取ればそれなりに有益である事
■たまたま自分の息子と同じ名前である事から興味を引かれた
などといったいくつもの偶然が(志貴にしてみれば運良く)重なった事によって引き取ることにした、といったところだろう。
なお、翡翠が槙久は「混血」の天敵たる一族を遠野家に取り入れることによって何らかの抑止力としての効果を期待したというような事を言っていたが、これに当てはまるのは理由1〜3だろうか。理由4は「天敵たる一族」ではなくその中でも特に「七夜の一族」に限定されるので同じ抑止力でも翡翠の言う条件とは少し異なる。
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