何故槙久は
七夜を滅ぼしたか


 槙久は10年前に七夜を滅ぼしている。それは七夜が遠野のような「ヒトでないもの」との混血である一族にとって危険な存在であるからだが、他にも浅神、巫淨、両儀といった彼らにとって天敵とされる一族は存在するのに何故七夜に対してだけ、しかも七夜は退魔の生業からはだいぶ前から離れていたらしいにも関わらずこのような強行手段をとったのだろう。

 私はその理由として七夜の戦闘スタイルが暗殺者タイプである事があげられるのでは、と思う。
 彼らはもし攻撃をしかけるなら馬鹿正直に真っ向から攻め込んでくるような真似はしない。殺し合いを楽しむなどという余分な思考は持たず、確実にしとめるために相手の能力は発揮させず、自身の能力は最大限に発揮できる状況へと持ち込む。
 つまり、いつ何処から攻めてくるかわからない上に、わかった時には既に手遅れといえる状態になってしまっているか、或いは攻めてきたという事を知る間もなく殺されてしまうかもしれない。
 とすれば槙久にしてみれば七夜が退魔の生業から離れた、などという話は信じられよう筈もない。きっとそう見せかけて不意をついて奇襲を仕掛けてくるのでは(*1)と気が気でなかったかもしれない。
 さらに言うなら"七夜"志貴の能力を見る限り(*2)七夜の人間は真っ向から遠野の人間(*3)とまともに渡り合えるくらいの戦闘能力はあると思われる。奇襲に頼らずとも充分強い敵がいつどこから奇襲を仕掛けてくるかわからない、などという状況は相当に神経をすり減らすものであっただろう。

 加えて彼の手記の内容から、彼の子供達への愛情は本物であった事がわかる(*4)。子供達を守るためにも自分達の命を脅かす存在は一刻も早く消さねばならない、と考えていたのかもしれない。

 また、これはハッキリとは言えないが槙久はその手記の内容からして、もしかしたら志貴の父となんらかの個人的な因縁があったのかもしれない。ただし文体からしてそのようにもとれる、というだけなので憶測の域をでないのだが。


*1:実際に七夜にそのような意図があったかどうかはわからない。退魔をやめたとはいえその技術は伝えられていたが、それが彼らの敵を油断させて奇襲をしかけるためだったのか、単にせっかく先祖が伝えてきた技術を途絶えさせてしまうのはもったいないと考えただけなのかは不明。

*2:直死の魔眼は彼が後天的に身につけたものだから除外。

*3:紅赤朱クラスは除く。

*4:本当に愛していたなら反転したとはいえ四季を殺せるのか? という事に関してはややこしくなるので敢えて考えないことにする。



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