紅赤朱となってしまった者はもう二度と人には戻れないという。ここではその理由に関して考えてみる。
彼等は先祖還りを起こして自らの中に眠る血を最大限に引き出した状態となった結果、小我としての理性が大我としての理性に飲み込まれて正気を保てなくなってしまうらしい。
空の境界の『両儀式』によれば肉体にも人格が存在するわけだが、それに関連した彼女の話から察するに、小我とは知性に基づく「我」、大我とは肉体に基づく「我」であると思われる。
前者は人としての生活を送った結果育まれた為、混血でも通常は人間寄りであると思われる。しかし先祖還りを起こした紅赤朱の場合、後者は完全に魔として覚醒している。
橙子さんによれば、二十年程度で育んだ意識ではより強固な肉体という自己にはかなわないという。恐らくもっと長く生きたとしても、上限が人間の寿命程度であれば結局同じ事だろう。
そしてその肉体の方が完全に魔として覚醒したのであれば、「大我が小我を飲み込む」といった事態に陥ってしまうのも無理からぬ事なのかもしれない。理屈は起源覚醒に近いと言えるのではないだろうか。
よって彼等が人に戻れなくなってしまう理由とは、小我を飲みこんだ大我の方がより強固な自己であるから、という事になると思われる。
先に「正気を保てなくなる」という言い方をしたが、それはあくまで「人間としての正気」と言うべきかもしれない。狂った、壊れたといった状態ではなく、別の思考回路が上書きされたというのに近いのではないだろうか。
普通の人間ならば小我と大我の属性が著しく異なるような事はないと思われる。混血だからこそ起こり得る悲劇といえるかもしれない。
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