聖堂教会がサーヴァントを
戦力として得ようとしないわけ

 吸血種の中でも突出した存在である死徒二十七祖であるが、公式な回答によればサーヴァント達との戦闘となると比較的不利であるらしい。
 ならば何故吸血種を最大の敵とする聖堂教会に冬木の聖杯戦争に参加し、召喚したサーヴァントをその後も留めて戦力としようという動きが見られないのだろうか。

 理由のひとつとして考えられるのはやはり、維持が困難である点だろう。
 凛がセイバーと契約し、彼女を聖杯戦争後も現界させ続ける事があるが、聖杯によるバックアップ無しで単独でそれを行う事は、不可能ではないが凛ほどの魔術師であろうと大きな負担となるようだ。
 この件に関しては聖堂教会ほどの大きな組織であれば解決策のひとつやふたつ用意できるのではないかと思われるが、デメリットである事には変わりないので理由のひとつとして挙げておく。

 だがこれだけでは多分足りない。もっと決定的な理由は無いだろうか。
 そこで思い当たったのが、そもそも御三家がマスターに選ばれやすい……つまり誰の身に令呪が宿るかという事に関してはある種の法則性が存在する事が読み取れる事。即ち、「マスターの選択は大聖杯が行う」という設定である。
 ならばもしも大聖杯側の選択基準において、「サーヴァントそのものを欲する」という動機を持つ者はマスター候補から除外されている、或いはマスター選定にあたっては優先順位が低く設定されており、そして聖堂教会もその事をわかっているのであれば、今回問題にしている件に関しては説明がつくのではないだろうか。

 考えてみれば、そもそも冬木の聖杯戦争において聖杯に注がれる「中身」は敗れたサーヴァントの魂である。そして七人分のサーヴァントの魂によって根源へ至る為の道が開かれるという仕掛けになっており、それこそが御三家の目的であった。
 ならば外部から参戦する、真相を知らされていないマスター達にとってはともかくとして、少なくとも儀式の成功を望む御三家にとっては、サーヴァントをその後も現界させ続けるなどという選択肢は論外であったとしてもおかしくはないかもしれない。
 したがってユスティーツァが礎となった大聖杯が、マスター選択にあたって前述のようなルールを設けていたという可能性もあり得るのではなかろうか。

 この推測の裏づけになりそうだと思えたのがFate/Zeroにおける以下の記述である。

 >「聖杯は……もちろん、より真摯にそれを必要とする者から優先的にマスターを選抜する。その点で筆頭に挙げられるのが、先にも話した通り、我が遠坂を含む始まりの御三家なわけだが」
 【Fate/Zero一巻 - P27/L10〜L12】


 聖杯そのものではなくサーヴァントの方を欲する、という動機から聖杯戦争に臨むようでは、「真摯に必要とする」という表現とは程遠いだろう。

 >「……聖堂教会の意向ではないの? あの連中は冬木の聖杯を聖者ゆかりの品と勘違いして狙っている、っていう話よね」
 >「いいや、たかだかその程度の動機しかない人間に、聖杯は令呪を授けない。

 【Fate/Zero一巻 - P83/L9〜L11】


 聖杯そのものを求めるにしても、上記のような理由では弱い。いわんや、求めるのが聖杯ではないのであれば、という事になるだろうか。

 しかし、以下のような記述もある。

 >「では全てのマスターに、聖杯を望む理由があると?」
 >「そうとも限らない。聖杯は出現のために七人のマスターを要求する。現界が近づいてもなお人数が揃わなければ、本来は選ばれないようなイレギュラーな人物が令呪を宿すこともある。そういう例は過去にもあったらしいが――ああ、成る程」

 【Fate/Zero一巻 - P27/L13〜L16】


 となると、サーヴァントを得る事を目的として冬木を訪れた聖堂教会の人間が、その身に令呪を宿す可能性もゼロであると断じる事は出来ないかもしれない。
 しかしそれでも彼らがその僅かな可能性を目当てに動くとは考え難いと思う。その根拠は以下の、聖杯戦争に参加する魔術師を異端として排除するのはどうか、という言峰の問いに対する、父・璃正の返答。

 >「それもまた困難だ。この聖杯に対する魔術師たちの執着は尋常ではない。真っ向から審問するとなれば、魔術協会との衝突も必至だろう。それでは犠牲が大きすぎる。
 【Fate/Zero一巻 - P24/L5〜L6】


 実の所、先の時臣の言葉にあるイレギュラーなマスターは、イレギュラーという割には意外にも多く存在していると言えるのかもしれないが、少なくとも聖堂教会側が上記のように捉えている以上、彼らがそのイレギュラーを目当てに積極的に動く可能性は低いのではないだろうか。
 つまり魔術師達の執着が尋常ではないのならば、七人分の席などあっさりと彼らによって埋め尽くされ、自分達の分など残らないと、そう考えるのではないかと私は思った。

 これらの事から総合的に考えて、やはり聖堂教会にとって冬木でサーヴァントを得るという計画は、実行に移す為に労力を割く価値はあまり無かったのではないだろうか。

 余談。
 最初にも述べたセイバーが現界する結末の、更にその後の世界においては、彼女達は聖堂教会となんらかの繋がりを持つ可能性もあるのだろうかと、ふと考えた。
 元より遠坂は聖堂教会ともパイプを持つ家である。その家の人間である凛がセイバーと契約し、彼女を維持し続けていたのであれば、聖堂教会が彼女達になんらかの接触をしてきても不思議はないと思うのだが。
 ただし、今回ここで挙げた理由とはまた別に聖堂教会がサーヴァントを得ようとしない理由が存在するのであれば、その内容次第では上記は妄想の域を出ないという事になるだろう。


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