王冠という異名

 メレム・ソロモンの異名である「王冠」の意味するところを考えてみる。

 メレムが生まれ持っていたという能力はやや両儀式のそれに近い。彼女のように根源に繋がっているとまではいかなくとも、彼はそれに比較的近い存在であったとも考えられるかもしれない。
 そして放っておけば生き神になっていたらしい。空の境界によれば肉体が鋳型となって人格は形成されるというが、彼の場合元から根源に近い存在として生まれてきた上に、四肢を失った事によって人間的な活動をする事が出来なくなった、つまり人間からかけ離れてしまったが故に、その肉体を鋳型とした人格は人よりは神、つまり根源に近付いた、という事だったのかもしれない。それに伴って能力も増していったのではないかと私は考えている。
 結局生き神となる事は真祖の手によって阻まれたらしいが、それでもその神懸った能力は健在だったのではないだろうか。

 そして同じく空の境界にて橙子さんが式にかけた言葉に「ケテルのカバリストでも辿り着けない深部に居られたというのに、贅沢な女め」という物がある。
 カバラにおいてこの「ケテル」とは「王冠」を意味し、月姫・空の境界で言うところの根源に非常に近い位置、といった扱いであると思われる。つまり式はそれよりも更に深い領域である根源に触れたのだという事をこの橙子さんの言葉は意味していたのだろう。

 ならば最初の生き神の話と総合して考えるに、両儀式が根源に直接繋がって生まれてきた存在であるのに対し、メレムはそこに近い「ケテル」の領域に繋がって生まれてきた存在だったという事も考えられるかもしれない。

 よって「王冠」という異名はこの「ケテル」にちなんだ物なのではないだろうか。


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