この文章の一部には私がTYPE-MOONさんのネタバレ掲示板に投稿した記事を再構成したものが含まれています。
かつてのアルクェイドは言葉を発する事が無かった。彼女は兵器として扱われていたため戦闘に必要の無い事は教えられなかったからである。
志貴が琥珀シナリオの秋葉との戦いで挑発的な言葉を投げかけてくる秋葉のその行動を"余分だ"と言っていた通り、敵とのんびり会話するぐらいならさっさと攻撃するなりしてしまえば良いのである。
会話の駆け引きで相手よりも精神的に優位に立つという戦略もあるだろうが、これは相手の戦闘能力が自分と同等もしくはそれ以上である場合に有効なのであって、格下の相手にそのような事をする必要は無い。アルクェイドのように圧倒的な戦闘力を持つ者にとってはやはり無意味だろう。
そんなアルクェイドが何故言葉を話すようになったのか。それは彼女の言葉を借りれば「壊れてしまった」ためであろう。
志貴に味方なってもらうよう交渉するため、という理由もあるだろうがそれが一番ではない筈。弱っていたとはいえ魅了するだけの力は残っていたからである。
「壊れてしまった」という言葉の意味するところは精神の崩壊ではなく、彼女の存在理由からすれば余分な事をするようになった、という事を指す。
原因はもちろん志貴である。志貴によって殺され、想像を絶する苦痛を味わわされた事から彼を激しく憎む。やがてその憎悪が反転して志貴に対する興味へと変化し、言葉を話すきっかけとなったものと思われる。
魅了された状態ではなく、ありのままの志貴に興味があったからからこそ彼に接触をする際に言葉を用いたのだろう。
また、激しく他人を憎んだのははじめてだと彼女自身も言っていた事からわかるように、以前の彼女は言葉を発さないどころか感情自体が希薄であったと思われる。
理由は勿論兵器に感情は必要なかったから。行動が感情に大きく左右されるようでは戦闘において不利である。
アルクェイドは志貴に殺された事によって、結果として希薄だった感情を激しく揺さぶられた。それがきっかけとなって志貴と共に行動し、様々な「余分な事」をする楽しさを知っていった事になるのだろう。
という事は、アルクェイドが志貴と出会わない、つまりアルクェイドが志貴に殺されることのない遠野ルートにおいての彼女は兵器としての在り様を保っていると思われる。
表ルートにおいては人懐っこい印象で気軽に志貴に話し掛けてきた彼女であるが、こちらのルートでもし志貴と出会っていたら全く正反対の態度を示していたかもしれない。
それはそれでプレイヤーの意表をついて面白かったと思うのだが、残念ながら実現されなかった。遠野家及び志貴の生い立ちに主眼を置いたストーリーにおいては部外者たるアルクェイドを絡ませると破綻する恐れがあるので仕方がないだろう。
しかし遠野ルートの中でも琥珀シナリオにおいてはロアを秋葉がとりこんだと見られる節がある。ならばその後日談としてアルクェイドやシエルが遠野家の面々にからんでくる……などという展開もありうるかもしれない。想像すると面白そうである。
余談。
・志貴に殺される事がなければ蘇生するために力を消耗する事もないので、アルクェイドの中に蓄積されている吸血衝動が限界をこえるのももう少し先送りされる事になるのだろう。だがそのかわり楽しい事も知らないままであるということになるため一概に良い事とは言えないかもしれない。
・アルクェイドが生まれてはじめて口にした記念すべき言葉は尾行してきた志貴が部屋のチャイムを押した時の「はい―――」というなんでもない返事、ということになるのだろうか?(笑)
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