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暗き島を護る者(中編)

 

   ***

「知らん、全く知らん」

 ナルは首を横に振った。彼ならば知っているかと思い、ヒイロは聞いてみたのだ。

 あの島と、海竜の事を。

 海竜。ヒイロ達はそう呼んでいる。

 今から少し前、メリビアの南西に動く島というものが確認された。以前その位置には島は無かったし、もう一度その島を確認したとき、その島の位置は変わっていた。つまり、移動しているのである。そして、その動く島の周辺には、その島を守るかのように巨大な竜がいた。海竜である。

 問題は、島の進行方向だった。島の周りには進入を拒むかのように渦があり、その周りを常に嵐が吹き荒れている。近付けば、危険ということだ。そして、島は移動を続けている。島の進行方向先、それは自由都市メリビア。

 その島を止めるべく、ヒイロらは竜汽船バルガンでその島へと向かった。だがそこで海竜に返り討ちにあい、ヒイロらは逃走を余儀なくされた。そして一旦メリビアへと戻り、一晩明けるのを待つと、この機械山にやってきたのだ。

「だけどなヒイロ、そいつは結構ヤバイと思うぞ。多分な、そいつには白竜砲の威力をいくら強くしたところで通じないんだよ」

 頭の上に『?』とでも浮かべていそうな表情のヒイロを見て、ナルは先を続けた。

「無効化してるんだよ、白竜砲を。白竜砲が効かないってのは、つまりそういう事だ。魔法壁か何かで防ぐことは出来ても、効かないことはないはずだ。だから……なんつーかまあ……その辺はルーシアにでも聞いてくれ」

「え? 私? ええっと……」

 逃げたな、などと心の中で思いながら、ヒイロはルーシアが話そうとすることに耳を傾けた。

「私に解る事は、あの海竜が無効化したのは白竜砲ではなく、白竜の力だということ……」

 ルーシアが言うには、白竜砲が海竜に当たる直前に、竜の力が消えたらしいのだ。竜の力によって収束していた魔法力はほとんどが霧散し、かろうじて残っていた力が海竜に当たった。いくら元が大きくとも、霧散した魔法力は海竜に傷をつけることはかなわなかった。霧散の字のごとく、霧状のものとなって辺りに立ち込めたのだ。つまり、白竜砲が効かないという事とあの時現れた霧は、竜の力が消されたからだと言うのである。

「魔法力の流れの点で言うならばあの島から出ている魔法力が一番危険……恐らく、あの島から出る何らかの力が、白竜の力を消したのではないかと……」

 そう、それはヒイロにも気付いていた。海竜から出る凶々しさも大した物だが、あの島から感じるものはそれを超えるものがあった。畏怖と恐怖と戦慄をごっちゃ混ぜにしたような、そんな感覚。

 ただ、それが解った所で根本的なことが解るはずもない。

 そこまで話を聞くと、ナルはやにわに口を開いた。

「まあ、要するにその島に行ってみりゃわかることだ。案ずるよりナントカって言うだろ? さ、いこいこ」

 さっさと立ちあがると、ヒイロとルーシアの襟首を引っ張って部屋の外に出ようとする。

「ちょ、ちょっと待ってよナル。あの海竜を何とかしないと、あの島には行けないんだよ? 何か……方法でもあるのかい?」

 ナルにずるずると引きずられながら、ヒイロは質問した。

「別に、ないこともない。ただ……」

「ただ?」

「……できれば、使いたくはなかったな」

 そう言うと、後は黙ってナルは歩き続けた。ちなみに、ヒイロは引きずられたままだった。

 

 え? レミーナとレオ? ああ、あの二人ならバルガンを修理しているよ。結構損傷が激しかったらしいからね。ほら、あそこでレオの元部下を文句たらたら使っているのがレミーナだよ。こういうとやる気が無い様に見えるかもしれないけど、口以上に自分も動いているから、文句を言うのは一人もいないね。

 見たところ大体修理は終わっているけど、ちょっと動力関係をいじっているみたいだね。アレには魔力は関係していないから、直したりするのは手作業なんだって。ま、それももう終わったみたいだね。まあ、これもレミーナの並外れた行動力のおかげかな? 彼女の行動力、スゴイからね。

 あ、ナルが出てきた。あらあら、まだヒイロ君引きずられてるよ……。それはともかく、レオとレミーナに何か言ってるね。バルガンは走れるかってさ。「正義の心の前に不可能は無い」? レオ、キミも好きだねえ、そう言うの。あ、ナルがなんか考えてるね。みんなに何か言ってるよ。

 あ、バルガンが動いた。どこか行くみたいだね。じゃ、場所を移さないと。

 

   ***

 メリビアというところは、いわゆる活気の街である。海があり、料亭があり、酒場がある。それだけあれば、人なんて勝手に集まるものである。人が集まれば商人が乗りだし、商人が増えればそこにまた人が集まる。かくして、街が出来あがっていくのである。

 街が大きくなる。そうなると、人の目が中々届かない場所も出てくる。時にはそこで犯罪が起こり、時にはそこで誰かがのたれ死ぬ。そう言うことのないように、その街を治める者がいるわけだ。そして彼らもまた、街の発展に力を尽くしてきたのだ。そして、英雄、賢者などと呼ばれる者達ならば、その街はいっそうの繁栄を遂げる。

 その繁栄の極みにある自由都市メリビア!

 ルナ各地から集まる人々、それまさに文化の集大成!!

 活気あふれる街・街・街! ま・さ・に、メリビア!!!

 

「要するに、ここを歩くのは嫌なんだな?」

 振り向くと、ナルがレミーナに向かって言った。レミーナは先ほどから『メリビアの歴史』なるものを声に出して読みながら、ナルの後ろを歩いていた。

「こんな暗くてじめじめした所、誰だって歩きたくないわよ!」

 レミーナの言うことにも一理あるなと思いながら、ヒイロは辺りを見回した。暗い。じめじめしている。たった一人でいるなら、『怖い』も加算されそうだ。

 機械山を後にしたヒイロ達は、メリビアの地下水路を歩いていた。メリビアの街に入るなり、『さて、地下水路に行くか』とナルが言い、半ば強引にヒイロ達はこのメリビアの地下に連れてこられたのである。おかげでレミーナはご機嫌斜めだ。

「そもそも、どうやってあの島に渡るのよ? 迂闊に近づいたら海竜の格好の餌食よ? それともナル、あなたがあの竜を何とかしてくれるわけ? 」

 不満をぶつけるべく、ナルに食って掛かるレミーナ。

「まあまあ落ちつけって。方法だけなら俺が何とかするから……」

「方法だけというのはどういう事だ?」

 レミーナをなだめようとしていたナルに、今度はレオが問い掛ける。

「さすがに俺の力を消しちまうようなヤツとは会いたくないからな。だから、俺は方法を教え――イテッ!」

 後ろを見ながら歩くので、お約束のごとくナルは壁に頭をぶつけた。道が左右に分かれているというのに、まっすぐ行こうとしたわけだ。一応ヒイロは気付いていたが、面白いので黙って見ていた。

「おいこらヒイロ、お前知ってて黙ってたな? 顔が笑ってるぞ?」

 とまあ、バレたりもしてはいたが。

「いやいやそんなことはともかく、その方法って言うのはどういうものなんだい?」

「ッたく……ま、止まったついでだ。さ、みんな聞いた聞いた」

 そう言うと、ナルは壁に背を向けて、そこにもたれるようにして立った。全員が話を聞ける状態になると、ナルは腕を組んで一言。

「正面真向勝負」

 間。

 一つ。

 二つ。

「……え?」

 誰ともなしにポツリと漏らす。

 再び間。

 一つ。

「もっとも、戦うのはお前らじゃない。でかい船がある。それが海竜と戦っている間に、お前らは島に渡る。簡単だろ?」

「……で、その船は?」

 今度は間を空けずにヒイロは聞き返した。

「俺の後ろだ」

 ナルは先ほど自分が頭をぶつけた壁の周りを、なにか規則的にいじっている。と、その壁が音もなく開いた。暗がりの中に、更に地下への階段が見える。

「ずーッと昔に造ったヤツだ。じゃ、行くか」

 そう言うと、ナルはその階段を降りていった。

 ヒイロ達は顔を見合わせていたが、結局行くしかないことに気付き、ナルの後へと続いていった。

 

『立ち入り禁止。強制的に開けようとすれば、天井が落ちるのであしからず』

 一つの扉の前にやってきた。そこに文字が書かれている。

「……新しいな」

「……新しいね」

「……新しいわね」

『――なお、ペンキ塗り立て。触れるべからず』

 少し指で触ってみる。手に青い塗料がついた。本当に塗り立てだ。

「ナル? ここはずっと昔に造られたのではないのですか?」

「…………多分。でもなんか、自信無くなってきた……」

 横を見ると、ナルが頭を抱えてうめいている。自分が見たものが信じられないといった感じだ。ここにルビィがいれば、壮絶な突っ込みを受けたに違いない。

「それにしても、一体誰が塗ったのかな?」

「わたしですよぉ? 結構上手に塗ってるでしょ☆ あれ?……あぁ〜!? 指で触りましたねぇ〜!! 指紋がついてますぅ〜★」

「あ、ゴ、ゴメン! まさか本当に塗り立てとは思わなかったから、つい……」

「塗り立てだから塗り立てだって書いてあるんですぅ。もう、次からは気を付けてくださいねぇ?」

「ゴメンゴメン、気を付けるよ。……で、君は誰?」

 いつの間に出現したのか、そこに一人の少女がいた。銀の瞳に銀の髪、着ているものは銀糸で編んだような、やはり銀のローブ。その容姿でこの暗い地下にいるのは、およそ不自然と言えた。そして、その間延びした話し方も、やはり容姿からは不釣合いと言えた。

 ともあれ、突然現れた少女に、そこにいた者は皆一様に呆然となった。

 ナルを除いて。

「……ミルじゃねえか。お前、なにやってんだ?」

「あ、ナルさんじゃないですかぁ。どうしたんですぅ? なにか用事ですかぁ?」

「人の話を聞けよ……まあ用事もあるけどな。ちょいと協力してくれ」

 そう言うと、自体が呑みこめずにボケッとしているヒイロ達にナルは彼女を紹介した。

「え〜ッと、こいつはミルフィーユ。通称ミルだ。よろしくしてやってくれ。

 で、ミル、こいつがヒイロ、こっちがルーシア、あっちがレミーナ、そいつがレオだ」

 かなり適当に互いを紹介する。とりあえず、互いによろしく言い合う。

 そして、ナルはそんなことにはお構いなしに先を続ける。

「ということで、協力してくれ」

「なにが『ということで』なんですかぁ? 説明してくれないと解りません〜★」

 ふむ、それももっともだ、と言うと、ナルは今までのことを端的に彼女に説明した。

 妙な島と海竜のことを。

「だから、船を出してくれねえか? なっ、頼む!」

「……解りましたぁ。じゃ、早速行きましょうかぁ」

 やけにあっさり承諾すると、ミルは例のペンキ塗り立ての扉の前に立った。ローブの中から手帳を取りだし、しおりを挟んでいた所をめくる。

「えっとぉ、今日の合言葉は……“私、生クリームを泡立てているから……”」

 ミルがそう言うと、扉が奥へ向けて開いた。

 今の合言葉に少し理不尽なものを感じながらも、ヒイロ達はその扉をくぐった。

 視界が開けた。

 広く、明るい。天井も高い。

 横の方に、鉄の壁が見えた。いや、だがそれは見上げているうちに壁などではないことに気がついた。

 船だった。

 とてつもなく、巨大な。

「海上決戦用兵器、超々弩級戦艦〈ミルフィーユ〉ですぅ〜〜☆」

 横でミルが叫んでいる。彼女と船の名前が一緒なのは、果たして偶然なのだろうか。

「初期装備がですねぇ、主砲16インチ6連装砲8基48門、副砲14インチ連装砲30基60門、機銃連装型26基、単装型56基計108、最高速力40ノット強、機関出力……」

「だ〜〜!!! わかったわかった!! どうせ聞いても解らないんだからそれ以上言うな!! だいたいなんだその単位は!?」

 よく解らない説明を始めるミルに、ナルが怒鳴る。

「これは大昔に使われていた単位ですぅ。これからがいい所だったのにぃ……ぶぅ★」

「言わなくていいって。にしても……この船、前より大きくなってねえか?」

「でしょうねぇ。わたしがすることと言ったら、船の管理と増設くらいですからねぇ☆」

 そう言うと、彼女は呆気に取られているヒイロ達の方を向いた。

「ね、スゴイでしょ? これはねぇ、ずーーーーッと昔にね、当時メリビア総督だったメル・デ・アルカークって言う人が造ったのよぉ? 当時の技術士をあちこちから呼んでねぇ……スゴイ暇人でしょ☆ 

 あ、それとわたしはこの船の管理者なのよぉ。〈ミルフィーユ〉と一緒に創られた、盗難防止用疑似人格とでも言うのかなぁ? わたしに言ってくれれば船を動かしますよぉ☆」

 つまり、逆に言えば彼女が動かさなければ、この船は動かない。船を使いたいのなら、先ほどのナルのようにミルに頼むしかないという事だ。

「この船はぁ、造ってからずっとこの地下に封印してきましたぁ。この船の本当の使い道はぁ、この絶対的な戦力をもってぇ、相手を戦わずして降伏させると言うのが本来の使い道なんですぅ☆ でもぉ、あまりに強力と言うので実戦には出されませんでしたぁ……一歩間違えば、ただ人々を恐怖に陥れるだけですからぁ。

 でもそんなのは造る前からわかっていたんですぅ。それでも、この船は造られましたぁ。なぜでしょう〜? 理由が答えられたら、船に乗せてあげますよぉ☆」

 ミルはそう言った。顔は笑っていたが、その目は真剣だった。『判らなければ協力できない』、そう言っているかのように。なまじ笑っているだけに、ヒイロには逆にそれが冗談とは取れなかった。答えられなければ船に乗れない。つまり、海竜に対抗できない。

「理由? メルのおっちゃんが機械城とヴェーンの対決に感化されて造ったんじゃないのか?」

「それは建前ですぅ。ナルさんは製造に詳しく関わってないから知らないと思いますぅ」

 ミルに言われ、ナルは黙った。中途半端に知っているものが口を出したところで、それは周りの混乱を招くだけ。多分、そう思ったのだろう。

 彼女の言う理由。なぜ、〈ミルフィーユ〉を造ったか。

 造りたくて造った。

 力の象徴として造った。

 未来に何か起こると予測して造った。

 しかし、どれでもない。この船は、隠されている。だからと言って、ナルが伝えようとしていたわけでもない。彼はここに来たことがある、くらいのものだ。

「ねぇ、なぜなんですかぁ?」

 誰も喋らない中、ミルが発言をうながす。

「なぜ造られたんですかぁ?」

 それでもまだ黙ったままのヒイロ達に、更にミルは答えを求める。

 彼女はこちらを見ている。真剣に。答えを、求めて。

(答えを、求めている……?)

 その時、ヒイロには何か気付くものがあった。

 彼女は、求めている。答えを。船は造られた。しかしそれは実戦では使えなく、それでもその船は壊されることはなかった。結果、彼女は残った。

 恐らく、彼女は悩んだろう。とてもとても長い間、自分の意味に。相談しようとしても、話す相手もいない。一人でずっと悩みつづけた、自分の存在意義。そして今、彼女の前に相談できるものが現れた。アルテナの四竜と呼ばれるような特殊な存在ではない、ただの人間。自分を創った、人間に。

 

 彼女の問いに答えるべきだ。ヒイロはそう思った。

「なぜぇ、この船は――」

「ミルフィーユが創られたから、〈ミルフィーユ〉は造られた。ミルフィーユがいるから、〈ミルフィーユ〉は残された。違うかな?」

「え……?」

「君は、この船に理由が欲しいんじゃなくて、君自身に理由が欲しいんじゃないのかな?」

「…………」

「その船がなぜ造られたのか僕は知らないし、なぜ君が自分に理由を求めるのかも知らない。理由を知らなければ、君はこの船に乗せないと言う。でも、僕達はこの船を使いたい」

「……なら、教えてくださいよぉ……」

「当時の人々が何を思っていたかは知らない。それならナルに聞くまでも、君自身のほうがよく知っている。だから僕らには、それに答えることは出来ない」

「じゃあ、船は出せませんねぇ……」

 そう言うと、ミルはヒイロ達に背を向けた。

 そのままどこかへ行こうとしたところを、しかしヒイロがこう言ったので立ち止まった。

「船を出すのに理由がいるのかい?」

「いりますよぉ。遊びじゃないんですからぁ」

「じゃ、友達が困っている。だから君は助ける。これでどう?」

「……友達? 誰とですかぁ?」

「? 僕らに決まってるだろ?」

 ミルは背を向けている。互いの顔が見えない会話。

「わたしはぁ、友達になった覚えはありません……」

「なら、今からなろうよ?」

「わたしはぁ……人に創られた存在ですぅ。だからぁ、人と友達になるなんてぇ……」

「構わないよ。じいちゃんが言ってたけど、生きてるものはみんな創られているんだって」

「……わたしはぁ……生きてないぃ……ただのぉ……人形ですぅ……」

「違うね。人形は泣かないよ」

「…………!!」

 彼女は泣いていた。

 彼女自身も気付いていなかったかもしれない。

 顔は見えない。それでも、確かに彼女は泣いていた。

「…………」

「それにもう一つじいちゃんが言ってた。友達になるのに理由はいらないってさ」

「……うう……」

「じゃ、こうしよう。君が今までここにいたのは、友達を待っていたから――えっ!?」

「……う……うう……うわああああぁぁぁぁぁぁん!!」

 今まで我慢していたものがせきを切ったように、彼女は泣き出した。その場で大声を上げて、子供のようにわんわん泣いている。

「え……と……」

 何となく気まずいものを覚えて、ヒイロは泣きじゃくるミルに近付いた。正面に回ると、彼女の顔を覗き込むようにしてヒイロは声を掛けた。

「あの……ミル……?」

「わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁんん!!!」

「わ! ちょ、ちょっと……」

 いきなりミルに抱きつかれ、ヒイロは狼狽した。

「わたしはぁ……ヒック……さびしかったですぅ……みんないなくなってぇ……ヒック……わたしはぁ……わたしはぁ……うう……」

「…………」

 何となく、ヒイロはルーシアのほうを見た。することがないので、こちらのやり取りを見ている。

 ヒイロは思った。ルーシアも同じだったのかな? と。もっとも、彼女は眠っていたのだが。

「うん……そうだね……独りは寂しかったろうね……」

 ミルの頭に手を置くと、ヒイロはよしよしと頭をなでた。

「ほらほら、泣かない泣かない」

「……うう……ありがとうございまふぅ……」

 その光景は、どちらかと言うと兄が妹をあやしている風に見えた。

 ミルはまだ少し嗚咽を漏らしているが、頭をなでられたおかげで(?)、だいぶ楽になったようだ。ヒイロから離れると、目元をローブの端でぐしぐしと拭く。

「ありがとうございましたぁ、ヒイロさん。わたしぃ、少しだけ何か解ったような気がしますぅ」

 何か途中で論点がずれていたような気もするが、特にヒイロは気にしていない。泣けるのはいいことだ。まあ、そんなところである。

 そして、ヒイロは聞いてみた。

「ミル、それじゃあ船を出してもらえるかな?」

「はい、いいですよぉ☆ ヒイロさん達はお友達ですからねぇ☆」

 元気な声でそう言うと、彼女はヒイロ達を船の甲板へと案内してくれた。

 

   ***

「ヒイロ」

「何だいルーシア?」

「ミルさん、かわいかったわね」

「そうだね」

「…………」

「…………」

「…………」

「……妬いてる?」

「……ちょっとだけ」

「…………」

「…………」

 少しうつむきがちなルーシア。

 ルーシアの側に寄ると、ヒイロは彼女の頭をぽんぽんと叩いた。

「ルーシアが素直なの、僕は好きだよ」

「……え?」

「はい、いい子だね。よしよし」

 そう言って、彼女の頭をなでる。

 なでなでなでなでなでなでなで。

「あっ……」

 ルーシアはどうしていいか判らずに、困った顔をした。しかし、どことなく嬉しそうでもある。

「まだ妬いてる?」

「……ううん」

 ルーシアは静かに首を横に振った。

 そして、顔を上げてこちらを見る。

「……だからもう少し」

「……わがままだなあ」

 口ではそう云いながらも、ヒイロはルーシアの頭を優しくなでていた。

 

 

 つかの間の休息、なんだろうね。

 それにしても、なんてうらや……微笑ましい二人だろうねぇ。というより、歯が浮いてしにそーね。あ〜暑い暑い。

 あ、そうそう。残念だけど、まだ続くよ。この話。

 長ったらしくてゴメンねぇ。

 ちなみに今回の話は、『船が手に入った』くらいのことで認識してくれるとわかりやすいかな?

 え? この軽いノリの文は何かって? そだね、上から見た感じかな?

 それじゃ、続こうか。でも、後編で終わる自信は無いってさ。……ンな無責任な。

 

                       (つづくぅ〜☆)






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