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 青き星のルーシア。
 詰まる所、彼女は何者なのか?
 回りの者は、彼女の事をこう言った。

 曰く 青き星の執行者にして、女神アルテナの代行人
 曰く 青き星を司りし者
 曰く 青き星の守り手
 曰く 青き星の眠り姫
 曰く 青き星のルーシア

 ――彼女は、青き星と共に在った。それとも、青き星が彼女と共に在ったのか――

 それがどちらにしろ、ルーシアにとって青き星とは、彼女の全てだった。
 ルーシアは、青き星が好きだった。
 だからこそ使命を全うしようとしたのであろうし――だからこそ人の存在に悩んだ。
 彼女は悩んだ。たった一人の人間の為に。ヒイロと呼ばれるその少年の為に。
 そう、"青き星のル−シア"が"人"の為に悩み、その結果、彼女の判断を狂わせたのだ。
 それは何故か?――答えは至って単純だった。

 ――ルーシアは、人間が……ヒイロの事が、好きだった――

 青き星のルーシアが、人の事を好きになった。
 彼女にとって、それは妨げにしかならなかったはずだ。
 だから彼女は、それを忘れようとした。――だが、出来なかった。
 そして、彼女は、"闇"に捕らえられた。

 ――ルーシアが見落としていたことは――

 見落としていたこと?
 ……そう、彼女は、気付いているのに、気付いていなかった。
 ヒイロもまた、ルーシアの事が好きだということに。
 その想いこそが力。ヒイロは、"闇"に立ち向かった。
 そして、起こるべくして、"奇跡"は起きた。

 ――そう、起こるべくして、だ――

 ルーシアは知った。
 人を想うということを――
 人を信じるということを――
 人を愛するということを――
 
――そして、その心こそが、本当の"奇跡"を生むのだということを――


「……あの〜……」
 はい?
「ルーシアをちゃんと登場させろ!  というクレームが来てますが……」
 仕方ないジャン。私はこういうものしか書けないんだから。
「そうですか……では、仕方ないですね……」
 そういうこと。で、そのハンマーはどこに持ってたわけ?
「ふところ」
 ヘえ……で、そのハンマーで、もしかすると……もしかするわけ?
「そういう……ことッ!」
 ゴスッ!
 ……クッ……無念……
「どうも失礼しました。まあ、ほんの余興ですので、気にせずに続けてください」
 ……いつかシメテヤル……って、おいコラ!蹴るな!
「多分、ここからが本題ですよ」
 今までに書いたのは一体何の意味があったのか……
「無いです」
 ……オイ。





   ルーシアの挑戦 〜踊り編〜


 暗黒神ゾファーを倒し、ルナに平和が戻ってから、約一年の月日が経った。
 ゾファーを倒した時点でルナは平和だったかもしれないが、ヒイロはその平和の中でボケている場合ではなかった。この一年、それこそレミーナのギルド再建の熱意に負けないくらいの想いを持って、世界中を飛び回っていたのだ。
 別に、世界旅行が目的というわけではない。まあ、その気が無い訳ではないだろうが。
 実の所を言うと……ルーシアが帰ってしまったのだ。青き星に。
「ルーシア、君が帰る家は、こっちにもあるじゃないか……」
 などと、少しキザッたらしいセリフを言ってみながら、この一年、青き星に渡る方法を探してきたヒイロ君。どうやら、努力の甲斐あって、青き星に行く事に成功したらしい。
 その結果、星竜は有名になった。
 世間では、星竜の出した試練の魔物をヒイロが瞬殺し、それに恐れをなした星竜がヒイロを青き星に飛ばした……というデマまである。どうやって帰るんだよ、それ。
 何はともあれ、ヒイロは青き星まで文字通り飛んで行き、ルーシアと再会した。
 なんにせよ、勝手に青き星に帰ってしまった事でみんなが文句を言いたいと思うので、ルーシアをルナに連れて帰った。まあ、建前だろう。実際、みんなの反応を見た限りでは、本気で文句を言っているような者はいない。
 ルーシア大人気。
 そんな訳で今、ここ機械山にてルーシア歓迎パーティーが行なわれようとしている――

「さあ! 準備よ準備! マウリ、ロンファ、料理をお願いね! ヒイロとレオは舞台の設置をお願い! あたしとジーンとルーシアは会場の飾り付け! ルビィはナルと一緒に小さい子供達の面倒を見てて!」
 機械山のナルの部屋に、レミーナの声が響く。
 今日は、『ルーシアおかえり記念!!ルーシア歓迎パーティー!!』という、呼んで字の如くのパーティーの準備を行なうのだ。パーティーそのものは十日くらい後である(正確には九日後)。
 ちなみに、マウリとロンファの料理というのは、別に今日作るわけではない。メニューやら食材やら何やらを考えたり、調達したりするわけである。あしからず。
「ようし、食材でも探しにいくか、マウリ」
「ロンファ、その前に何を作るか決めないといけないでしょう? でも……そうね、探しながら考えるというのも面白いかもしれないわね……」
「そうと決まれば早速行くぞ!」
「あ、ちょ、ちょっとロンファ……行き先を決めないと……」
「いいんだよ。行き先なんてもんは、サイの目次第だ!」  結構恐ろしい事を言いながら、ロンファがマウリの手を引っ張って出て行く。  うん、実に微笑ましい(?)光景だ。
「はっはっは! 相変わらず仲が良いな、あの二人は。ところでレミーナ、舞台の設置というのはどういうことだ?」
 ロンファとマウリが部屋を出て行った後に、レオが言った。
「ふふん、昔からパーティーといえば舞台と相場が決まってるのよ」
 人差し指を天井に向けて、得意そうにレミーナが言った。やけに自信満々である。
「しかし、それは祭りの事を言っているのではないのか?」
 と、レオの指摘に、レミーナが動きを止めた。
「…………」
 しばらく沈黙した後、何故かあさっての方を向いて、レミーナが言った。
「祭りもパーティーも、人が集まってドンチャン騒ぎするものだからね〜……まあ、似たようなもんでしょ。言い回しが違うだけで」
「つまり、これは祭りと同じと考えても良いのだな?」
「……細かいことは気にしないの!ほら、早く行った行った!気合入れて作りなさいよ!」
 レミーナはとりあえず勢いでごまかすと、まだ首を傾げているレオを外に追い出した。
「レミーナ、もう少し落ちついたらどうだい?まだ日はあるんだし……」
「そうよ、そんなにあせっても仕方ないでしょ?」
「そうそう。いざとなれば、日をずらすことだって出来るじゃないか」
 ジーンとルビィとヒイロが、それぞれレミーナをたしなめる。が、
「ちょっとぉ!何でまだヒイロがいるのよ!早くレオと一緒に舞台を作ってきなさい!」
 結局、ヒイロまで追い出されてしまった。
 今部屋に残っているのは、レミーナ、ルーシア、ジーン、ルビィ、ナルの五人である。
「さて、それじゃ俺達はガキの面倒でも見てくるかな。ルビィ、行くぞ!」
「言われなくてもわかってるわよ!」
 ナルとルビィが部屋を出ようとしたとき、レミーナが後ろから声をかけた。
「あ、そうそう。ナル、子供達の中で手伝えそうな子がいたら、みんなの所に回しといて」
「ん? ああ、わかった」
 片手を上げて答え、ナルは部屋を出ていった。
 で、後に残るのは――。
「さて、レミーナ。そろそろ私達も行こうか?」
 ジーンが言う。
「飾り付けというのは、どういう風にするのですか?」
 ルーシアが問い掛ける。が、レミーナはそれには答えずにこう言った。
「あなた達二人はいーの。飾り付けはあたしと子供達にまかせて!」
「いや、『まかせて!』じゃなくてさ……なら私とルーシアはどうするんだい?」
 その問いに、レミーナはふっふと意味ありげに笑うと、
「今回のメインの出し物! それはね……ルーシア! あなたが踊るのよッ!」
 と、ルーシアをビシッ!っと指差しながら言った。
 そして、今度はジーンの方に向き直る。
「ということでジーン、指導のほうはお願いね☆ みんなびっくりするわよぉ〜☆ それじゃ、がんばろう!」
 そう言うと、あっけに取られている二人を残して、レミーナはさっさと外に出ていってしまった。
 レミーナが出ていった後、しばらく考えをまとめると、ルーシアが呟いた。
「踊り……ですか。私に出来るのかしら……?」
「まあ……確かに、ルーシアに教えるって約束したからね。ちょうどいいかもね……」
 かくして。ここに、ルーシアの踊りへの挑戦が始まったのである。

 ――1日目――
「よし、じゃあ取り敢えず、踊りの基本から行ってみようか」
 どうやら今日は、踊りの基本から始めるらしい。まあ、至極当然である……が、
「踊りの基本は心!習うより慣れろッてね!私が踊るから、後について踊っておくれ!」  ……それでいいのか?

 ちなみに、ヒイロは頑張って舞台の設計を考えている。
「いいか! 正義というものは己の信念と他者に対する思いやりがあってこそ……」
 その横ではレオが、その辺にたむろしている子供達をつかまえて、正義の道というものを説いている。

 1日目だった。

 ――2日目――
 取り敢えず、彼女達は踊っている。十日間などで踊りを覚えようと思えば、これが一番手っ取り早いかもしれない。
 ヒイロとレオは、材木の切り出しに行った。設計は出来たらしい。
 その後、『正義の道』を説いている所をレミーナに見付かり、レオは黒焦げにされた。

 2日目だった。

 ――3日目――
 まだ踊っている。が、さすがに結構疲れたらしい。
「ル、ルーシア……あ、あんた結構タフだねえ……」
 ルーシアは音を上げない。拳法家として、かなり体力には自信のあるジーンが言うのである。ルーシア恐るべし。

 マウリとロンファは、メリビアの地下水路にいた。
「確かここにデスカラシンだか何だかがいたと思うんだが……」
「本当に? じゃあロンファ、捕まえる時は注意してね」
 カラシンは結構美味である。

 3日目だった。

 ――4日目――
「う〜ん、やっぱりちょっと観客が欲しいねえ。あと、音楽も」
 ジーンの提案によって、二人はキャラバンまで飛んだ。ありがとう、メダリオン。

「う〜ん、その字幕はもうちょっと上かな? ……うんそうそう、その辺」
 レミーナ、子供達と共に、会場の飾り付けを頑張っている。
「外の飾り付けは……雨が降るといけないから、最後の日に一気にいくわよ!」
 どちらかといえば、ペース的に最後の日にならざるをえなかったりする。

 4日目だった。

 ――5日目――
「う〜ん……どうも機械的なものが抜けないねえ……」
「ふむ、しかし踊り自体はたいしたものだぞ?たった三日やそこらで、あそこまで正確に覚えるというのは、普通では無理だ」
 ルーシア、踊りを頑張っている。踊りは覚えたのだが、どうも面白味に欠ける。
 キャラバンにて、ジーン、ギバンと悩み中。

「材木を運ぶ時は危ないから気をつけるんだよ!」
 ヒイロ、舞台の設置。屋外で、結構本格的である。子供達を駆使して進めている。
「必殺剣! てぇりゃああぁぁぁ!!!」
 気合一発、レオ、材木加工。

 5日目だった。

 ――6日目――
「もう少しここでステップを強く! それで、すぐにターン!」
 ジーン、取り敢えず自分なりのやり方で、ルーシアに教える。
 が、やはり機械的なものは抜けない。何となく、正確過ぎるのだ。
(私にはお手上げかな……)
 明日には機械山に帰ろう、と思う。
 その夜、ジーンはキャラバンの皆の前で踊った。青き星が綺麗だった。

「ねぇねぇ、ルーシアお母さんは?」
「あたし、ルーシアお母さんの歌が聞きたいな……」
 ナルとルビィ、苦労中。子供達、二言目には『ルーシアお母さん』である。
「ルーシアは今忙しいの! あたしが代わりに遊んだげるから我慢しなさい!」
「おい、ルビィ! 小さい子供に向かってそういう言い方はないだろッ!」
「なによ! あんただって似たようなもんでしょ!」
 ともすれば、自分の事で手一杯。しかし子供達は、その様子を眺めて楽しんでいる。
「ふたりともなかがいーねー……」

 6日目だった。

 ――7日目――
「そうだ、ルーシア。子供達の相手をしてごらんよ」
 またもやジーンの提案により、ルーシア、子供の相手をすることになる。
「ねぇねぇ、こもりうたうたってよお!」
 ルーシア、おねだりに負けて歌った。その時の彼女はとても楽しそうだった。
 彼女の声は、よく透った。
「ルーシア……」
 その声は、舞台設置場所にいるヒイロにまで届いた。
「ようし、やるぞ!」
 さすがルーシア。その歌声は世界一だ。

 マウリとロンファ、食材探しの真っ最中。そろそろ帰らないと。
「……よし。白竜の羽をくっつけて……っと」
 白竜の羽。これをつけておくと、勝手に機械山(正確にはナルの所)まで運んでくれるという、便利なシロモノである。食材はこれで全部送っている。
「マウリ、大丈夫か?」
「ええ……でも、これ本当に人を運べるの?」
「白竜さんの加護ってヤツだ。その気になれば、家だって運べるらしいぞ」
 今度は、自分達を送るらしい。

 7日目だった。

 ――8日目――
 珍しく、雨が降った。
「舞台はもう出来てるみたいだから……後は外の飾り付けだね」
「この調子じゃあ、明日までやみそうにないわねえ……」
「ということで皆さん、今日は料理の手伝いをしてみましょうか?」
 というマウリの一言で、厨房は修羅場と化した。
 子供達を合わせて、二十人以上が厨房にいるのだ。……そら、修羅場にもなるわな。
 結局この日は、料理の仕込みを大人数でやった。よくできたよ、ほんとに。


 その日の夜――まだ雨は降っているが――ヒイロは、舞台の具合を見に外に出た。
 昼間のことで疲れたのか、みんなグッスリ眠っている。
(地面の調子は大丈夫かな……)
 と、外に出ようとした時、舞台の方に人影があるのに気がついて、ヒイロは慌てて出口の側に隠れた。次第に暗がりに目が慣れ、その人影がハッキリしてくる。
(……ルーシア?)
 そう、そこにルーシアがいた。
 舞台から少し離れた、広場になっているところで、ルーシアは踊っていた。
 舞台を使わないのは、それなりのルーシアの配慮があったのかもしれない。
 降りしきる雨の中、ルーシアは踊っていた。
 観客が居ない事も、合わせる音楽が無い事も、自分に跳ねてくる泥も気にせずに、彼女は一心不乱に踊っていた。
(…………あれ?)
 ――ヒイロは泣いていた。それは、ただ彼女の姿に感動したからなのか――
 そして、ヒイロは外へ出た。ルーシアの後ろにある丸太の椅子に腰掛ける。
 ルーシアは、一心不乱に踊り続ける。すぐ側にまで来たヒイロにすら気付かないほどに。
「ルーシア……」
 呟くと、ヒイロはオカリナを手に取った。
 静かなメロディーが、その笛の中から流れ出てくる。
「――!?」
 ルーシアは軽くステップを踏むと、ヒイロの方に振り返った。
「……ヒイロ!?」
 踊りを止めて、ルーシアは驚いたように言った。
 ヒイロはオカリナを奏でている。と、一旦演奏を止めて、ヒイロは言った。
「ルーシア、踊ってごらんよ。僕が演奏するからさ……」
 そして、ヒイロはオカリナの演奏を再開した。
「ヒイロ……」
 静かなメロディーに乗って、ルーシアは踊り始めた。
 それは、ジーンに教えられたものとは違う、静かで、美しい踊りだった。
 静かな音色に乗って、静かに踊るその姿は――まさに女神そのものだった――
 雨の中、少年はオカリナを吹き続け、少女は踊り続けた。
 二人の頬を、熱いものが伝って落ちる。
 もっともそれは、雨に隠れて見えなかったが――

 いつしか雨もやみ、二人は空に映る青き星を眺めていた。
 今ルーシアは、ヒイロと一緒に丸太の長椅子に座っている。
「……ありがとうヒイロ」
「え? い、いや僕はただオカリナを吹いてただけだけど……?」
「ふふふ、それでいいのよ……ありがとう……」
 そう言うと、ルーシアはヒイロに寄り添った。
 雨に濡れた彼女は、どこかいつもと違う雰囲気を漂わせていた。
 彼女の青い髪の先から、一滴の水が滴り落ちる。
 ヒイロは、思わず呟いた。 「……綺麗だ……」
「あら、はじめて会った時と同じことを言うのね、ヒイロ」
 クスッと微笑むと、ルーシアは言った。
「! ……覚えてたのかい?」
「もちろんよ。ヒイロ、あなたから聞いた最初の言葉だもの」
 上目使いにいたずらっぽく笑いながら言うと、ルーシアはヒイロの肩に寄り添った。
「……うん、そうだね……」
 二人はそのまま、空に浮かぶ青き星を眺めていた。  いつまでも――

 ……8日目だった。

 ――そして、当日――
「さあ!一気に仕上げるわよ!」
 レミーナが叫ぶ。彼女の声も、ある意味よく声が透る。ん? 大きいだけか?
 まあ、ともあればこそ、彼女は役割分担を次々と割り当てていった。
 レミーナの指揮と、子供達の底力(?)によって、めでたく飾り付けは終了した。

「ということで、今から『ルーシアおかえり記念!!ルーシア歓迎パーティー!!』を行ないたいと思いま〜す!」
 その物ズバリのパーティー名をレミーナが言ったのを合図に、お祭り騒ぎのパーティーが始まった。
 このパーティーには、色々と、呼べる範囲でルナ全域の人を呼んでいる。

「あたしも魔法ギルドの当主なんてやってるんだけどね、結構苦労するのよ……」
「レミーナが苦労してるのは、お金のことじゃないのかい?」
「似たようなものよ……」
「なるほど、魔法ギルドの当主というのは、商人という意味もあったのですね……」
『違うッ!!!』
 何やら舞台の上で、ルーシアとジーンとレミーナがトリオ漫才を試みている。もっとも、ルーシアにしてみれば、普通に会話しているものと思っているらしい。

「いいか! 正義というものは確固たる己の信念と、それを貫き通すだけの勇気が必要なのだ! そして何より、その行動を信じる事が大切なのだ! そもそも正義というものは、一人一人がその行動において……」
 今度はレオの演説、『正義への道』である。毎回、微妙に話す内容が違う。
 全部アドリブというから、なかなかに侮れない。が――、
「レオ、そんな話はまた今度、人がいない時にでもやって!」
 結局、レミーナに突き落とされて、レオ無念。

「にぎやかねぇ……」
 騒然とした会場を眺めながら、ルビィが言った。取り敢えず今は、人の姿になっている。
 横にナルを連れて一緒に歩いているその姿は、まさに恋人同士といったところ。
「まあ、お前が一番にぎやかだけどな……」
「……な〜んですってえ〜!!」
 ……とはいえ、あの二人である。どうも、素直になれないようだ。
「お〜う、ルビィ、青春してるかぁ〜?」
 と、既にできあがっているロンファが、歩く二人を見つけて声をかけた。もうすっかり親父口調である。
「ロンファ、あまり飲み過ぎると身体に毒よ?」
 その横で、マウリがロンファをたしなめている。かくいう自分も、結構飲んでいるようだ。テーブルの前に、カラになったビンがかなり置いてある。
「マ、マウリって結構酒に強かったんだな……」

 それを見て、ナルが本気でビビッていた。
「あ、あたしはあんなに飲まないわよ……」
「あ、ああ、そうしてくれ……」
 結局、それについて二人の意見は一致したようだ。やるな、マウリ。
 再び舞台。
 さっきから飛び入り参加を推奨しているのだが、どうも来るのには変なのが多い。
 恋人との恋愛話を言おうとか、『俺と彼女のポエム』なるものを読もうとか、挙げ句の果てにはボーガンが歌を歌うと言い出してきたのだ。
「もう……みんなしてろくなことしようとしないんだから……」
 かなり個人的な理由で判断してるとは思うが、そんな事は気にせずにレミーナは続けた。
「やっぱり、ここは一つあたしの美声を聞かせなくっちゃ♪」
 そう言うと、レミーナは舞台に上がった。
 そして、観衆に向かって叫ぶ。……観衆って言うのか?
「さあて皆さん! あたしの美声をとくとご覧……じゃなかった、ご拝聴下さい!」
 そして、反対の声を押しきって、レミーナは歌い始めた。
「パンパーカと〜♪ 魔法のロッドで虹をえが〜けば〜♪」
 熱唱している。しばらく、舞台は空きそうにない。

 ここは、会場とは少し離れた所にある、森への入り口。ちょっと騒ぎの中を離れて、ヒイロとルーシアが話をしていた。
「ねえ、ルーシア。今日は踊るのかい?」
 木の幹に腰掛けながら、ヒイロはルーシアに聞いた。
「ええ、そうよ。元々今日のために練習してきたの。本当はヒイロを驚かそうと思ったのだけど……もう見付かってしまったから……」
 残念そうにルーシアが言った。
「い、いや、いいんだよ。昨日のでも十分驚いたから……」
「そう? ありがとう、ヒイロ」
 ルーシアが微笑みながら言ってきた。
(うッ!……)
 今日のルーシアは、少しお酒が入っている。
 あまり顔には出ないものの、逆にほんのりと上気した顔が妙に色っぽい。
 少し瞳が潤んでいるのはお酒のせいなのか、それは判らないが、いつもとはまた違った感じがする。言うなれば、『オトナのミリョク』とでも言うのか。
 ちょっといつもとは違うルーシアに、ヒイロ君少しドキドキ。
「ル、ルーシア、そろそろ行こうか?このパーティーは君がメインなんだから」
「……そうね、そろそろ時間かしら?」
 そういって、二人は会場に戻って行った。
(ちょっともったいなかったかな?)
 などと思ってみたり。ヒイロ君、お年頃。

 そろそろ日が落ちてきて、辺りが暗くなってきた。
 舞台はかがり火によって照らされている。
 今、ようやくレミーナが歌を終えたところだった。
「う〜ん、よく歌った〜♪ もういいわよ〜」
 要するに、ストレス発散だったの? まあいいけど。
「ホントによく歌ったねえ……じゃあ、そろそろ私が踊ろうか?」
 ジーンが、舞台から降りてきたレミーナに向かって言った。
「そうね……ここで一発盛り上げないとね……あたしの歌だと少し役不足だし……」
「……私の踊りもそんなに大層なものじゃないって……」
 ジーンは謙遜する。まあ、そういうものは結構自分では気付かないものである。
 と、少し考えて、レミーナは言った。
「よし、じゃあキャラバンのみんなを呼んでこよ〜♪」
「ああ、よろしく頼むよ。私はここで準備をしてるから」
「まっかせて〜♪」
 やけにハイテンションで、レミーナは人ごみの中に入っていった。
「やけに機嫌がいいねえ……」

「はい! みなさん注目注目! 歌って踊れる拳法家、ジーンさんの登場で〜す☆」
「レミーナ、私、歌は苦手なんだって……」
 そう言いながら、舞台に上がるジーン。
「それでは、彼女の踊りを思う存分ご堪能してくださ〜い☆」
 そう言うと、レミーナは舞台を降りた。
「さて……それじゃ……!」
 両手に扇子を持って、ジーンが構える。
 タンッ!――
 彼女のステップを合図に、舞台の周りから楽器の音が鳴り始めた。次第に一つの旋律へと変化していく。
 その数種類の楽器の奏でる曲の中で、彼女は踊った。
「おい、ジーンが踊ってるぜ!」
「わあ、ほんとだ〜……ステキぃ……」
「ほら、メシ食ってる場合か!早く見ねぇと損するぞ!」
 相変わらず、彼女の踊りは人気がある。
「ああ……ジーンおねえさま……」
 ……彼女は女の子にも人気がある。
「ふう、よく踊ったよ……やっぱり観客が多いと、自然と気合が入るねえ」
 踊りを終えて、果物ジュースなどを飲みながら、ジーンが言った。
「さすがジーンねえ、今日の踊りもステキだったよ〜」
「ふふ、ありがとルビィ」
 そう言って笑うと、隣に座っているルーシアに、ジーンが言った。
「……ルーシア、踊れるかい?」
 確かに、踊れる踊れないで言えば、ルーシアは踊れるだろう。
 しかし、あの調子の踊りで、みんなの前で踊っては、失敗するのは目に見えている。  だが、ルーシアはこう言った。
「ジーン、私、歌いたいのだけど……?」
(……確かにルーシアの歌なら大丈夫だよね……)
 ジーンはルーシアの言葉を、踊りの代わりに歌う、という風に取った。
(ちょっと残念だけどね……)
 とも思ったが。
「ああ、そうしなよ」
「ありがとう、ジーン」
 そう言うと、ルーシアは舞台に上がって行った――

「ラ〜ラ〜〜ララ〜♪ ラ〜ララ〜ラ〜♪ ラ〜ラララ〜ラ〜ラ〜♪ ラ〜ラ〜ラ〜♪」
 これは、昔機械山で歌ったルーシアの子守り歌である。
 その歌声に、機械山の子供達は、雑用そっちのけでルーシアの歌に聞き入っていた。
「ルーシアお母さん……」
「ほら、あれがルーシアお母さんの子守り歌よ」
「キレイ……」
「アレね、あたしが教えたのよ!」
「ボクはルーシアお母さんにだっこしてもらったことがあるんだぞ!」
 なんか色々と言っているが、機械山の子供達は、みんなして『ルーシアお母さん』が好きである。前はいなかった子供達も含めて。
「ラ〜ララ〜〜ラ〜♪ ラ〜ラ〜ラ〜ララ〜ラ〜〜♪ ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜〜〜〜〜〜♪」
 と、その時、舞台の袖の方から、静かな笛の音色が聞こえてきた。
 舞台で歌うル−シアを見入っていた人達は驚いて、そちらを見やる。
 そこでは、一人の少年が、静かなオカリナのメロディーを奏でていた。
(……ヒイロ?)
 少年をよく知る者は、皆一様にそう思っただろう。
 ルーシアは歌を終えると、オカリナを吹いているヒイロの方を向いた。
 一旦オカリナを吹くのを止め、ヒイロは、舞台で歌っているルーシアに目配せした。
 パァァァァッ!!
 一瞬、ルーシアの体が強烈な光を放った。
 観客達は驚いて光を手で遮り、光が収まった時にその手を除けて、ルーシアを見た。そして、もう一度驚いた。
 ルーシアが、踊り子の衣装を纏っていたのである。
 瑠璃色を基調としたその服は、空に浮かぶ青き星と相重なり、彼女をとても神秘的に見せていた。
 誰一人として言葉を発しないその中で、ルーシアは静かに微笑みながら佇んでいる。
 そして、ヒイロがオカリナを吹き始める――
 それに合わせて、ルーシアが踊り始めた――
 かがり火に照らし出された二人は互いを想う様に、吹き続け、そして踊り続けた――


 ルーシアの踊りを最後に、取り敢えずパーティーと称される祭りは終わった。
 後は、後片付けに追われる年長の子供達やら、今日のうちに帰って行く人達やらで、会場はごった返した。ちなみに、小さい子供達はもう寝ている。ルーシアの踊りが終わった後にグッスリさ。
 ――どうでもいいことだが、これが『ルーシア歓迎パーティー』と最後まで自覚していた人が何人いるのだろうか?
「いやあ、凄かったねえ、ルーシア。あんたもあんな踊りができるんじゃないか。私が教えなくてもよかったみたいだね」
「うん、キレイだったよぉ、ルーシア」
「う〜ん、あたしの予想以上だったわよ」
「素晴らしかったですわよ、ルーシアさん」  後片付けを終えて、部屋に入って来るなりルーシアはみんなから声をかけられた。
「見ないので何かしているとは思っていたが……踊りの練習をしていたとはな……」
「ごめんなさいね、レオ。みんなを驚かそうと思って……」
「どうせレミーナあたりの考えじゃねぇのか?」
 ロンファが言う。何故か、こういうことには勘が鋭い。
「言ったのはあたしだけど……ヒイロが出るなんて聞いてなかったわよ……ジーン?」
「あれは私も知らないよ。結局、最後にルーシアの力になれたのは、やっぱりヒイロってことじゃないのかい?」
「そ、そんな……僕は……」
 ちょっと照れているヒイロとルーシアを囲んで、みんなヤンヤヤンヤと騒いでいる。 「ねえねえ、ところであの服は誰がデザインしたのよ?」
 レミーナが言った。踊り子の服の事を言っているらしい。
「あれだけのデザインセンスの持ち主なら、あたしがスカウトして、魔法ギルドの新しいローブのデザインを考えてもらうのに……」
 すると、どこからともなく声がした。
「あら、本当? ではレミーナ、早速考えてみるわね」
 聞き覚えのある声にそちらを向くと――レミーナの母親のミリアが、いつもと同じくのほほんと……もとい、微笑みながら立っていた。
「お母さま? え……ということは……あれはお母さまが考えたの!?」
「ええ、そうですよ。昨日、ヒイロさんに頼まれましてね」
「あ、ミリアさま。昨日は無理を言ってすみませんでした」
 ヒイロが、ミリアを見つけてお礼を言う。
「あら、ヒイロさん、別にいいのよ。なかなか考えるのも楽しいものですから。それに、ルーシアさんは可愛いから、何を着せても似合うと思いますし……」
「も、盲点だったわ……まさかお母さまにこんな特技があるなんて……」
 レミーナ、がっくりとひざを落としてぶつぶつと言い始める。かなり、ショックだったらしい。
「ふう……でも、ちょっと疲れたな……ルーシア、少し夜風に当たりに行かないかい?」
「そうね……では皆さん、少し失礼します」
 ヒイロの言葉にルーシアが頷くと、二人は外に出ていった。
「じゃああたしも行くー!」
 と、ルビィが追いかけて行こうとしたが、後ろから腕を引っ張られて止められた。
「……何すんのよ、ナル?」
 後ろに振り向いて、手を掴んでいるナルに言った。
「お前なあ……わかるだろ? 二人の邪魔すんじゃねえよ……」
「……あっ、それもそうね……」
 ちょっと頬などを掻きながら、ルビィは追いかける事をやめにした。
 メインの二人はいなくなってしまったが、それで黙っているような連中ではない。
「よし、ではここでさっき話せなかった『正義への道』というものを……」
「レオ! そんなに焼かれたいのッ!」
「ようし、じゃあここは一つ私が踊ろうかい?」
「ロンファ? この位で酔いつぶれるの? だらしないわよ?」
「か、勘弁してくれマウリ……」
「つまり正義というものは、世の為人の為に働くことで……」

「燃え上がれ! 炎よ!」
「こらッ! 俺の部屋で炎の魔法なんか使うんじゃねえ!」
 ……あ〜うるさい……

 二人は、機械山の公園で夜風に当たっていた。
 先ほどまでの騒ぎが嘘のように、辺りは静まり返っている。
「う〜ん、風が気持ちいいなぁ」
「そうね。でも、以前の私ならば、こんな事は思いもしなかったでしょうね……」
 軽く吹きつける風を体に感じながら、二人は言った。
 そして、しばらく空に浮かぶ青き星を見つめていた。
 と、ヒイロが青き星を見つめながら口を開いた。
「青き星……僕はあそこまで行ったんだな……」
「ええ……ヒイロを見たときはびっくりしたけど……でも、とてもうれしかったわ……」
 青き星を見ながら、ルーシアは言った。
「でも、まさか青き星にまで来るなんて……凄いというより、あきれたわ……」
 クスクス笑いながら言ってくる。
「もう、どこにも行かないよね?」
「ええ、もちろんよ。それに……どこかヘ行こうとしても、ヒイロが行かせないでしょう?」
 そう言うルーシアの顔は、どこかとても幸せそうだった。
「もちろんだよ! ルーシア、僕は君を離さない! それに、例え君がどこに行っても、かならず迎えに行ってみせる!」
 そう言うヒイロの目は真剣だった。
 そう、彼ならそれを成してしまうだろう。現に一度、青き星まで彼女を迎えに行ったのだから。
 そして、ヒイロが思い出したように言った。
「あ、そうだルーシア、色々忙しくて君に言えなかった事があったね」
「? どうしたのヒイロ、急に改まって」
 ルーシアがそう言うと、ヒイロはルーシアの方に向かい直って、言った。

「おかえり、ルーシア」

 それを聞いて、ルーシアは少しの間ぽかんとしていた。
 が、やがて、ヒイロの笑顔につられるようにクスッと微笑むと、言った。

「ただいま、ヒイロ」

 青き星が、彼らを祝福するように輝いている。
 二人の本当の物語は、これから始まるのかもしれない――











  フッ、あとがき〜☆(興味があったら見といてね)

 チャンチャン♪っと。
 いやあ、なんか色々と書きました。(私にとっては)たくさんのキャラを出しました。収拾がつかなくなりました。でも、そんなことは知ったこっちゃないです(オイ)。
 私は満足しています、一応。書きたいことが書けたので。
 この話、一体何が書きたかったかと言うと、
『雨に濡れたルーシア!』
『ほろ酔い気分のルーシア!』
『踊りを踊ってるルーシア!』
 という事です。
 なぜそこまでしてルーシアを書いたのか?答えは簡単です。
「ルーシアカワイイもん」
 まあ、そういうことです。……え? 動機が不純? まあ、いいじゃないの。
 ちなみに、ちょっと長くなりました。本当はこれの半分以下で終わる予定だったのに……読む分にはそうは思わないかもしれませんが……
 まあ、ともかく! これを読んで面白いと言ってくれるのならよし! つまらないと言うのだったら頑張ります!(何をだ?)
 結構時間をかけたので、あとがきの一つも書いてみたくなりました!
 ということで(どういうことで?)、また私が何か書いたら読んで下さい!

 後、最初の方のよく判らない会話は気にしないで下さい。余興(?)ですので。




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