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〜ナッシュの苦悩〜
(ガレオン様を倒すなんて・・・ホントに出来るのかな)
そう心の中で呟いたナッシュは、自分がまだガレオンを「様」付けで呼んでいることに気が付いた。
無意識に溜息をつく。
ガレオンは、ナッシュにとって憧れの存在であり、目標であり、絶対でもあった。
ガレオンは強い。
ガレオンは負けない。
ナッシュは・・・ガレオンに勝つことはできない。
(みんな・・・本気でガレオンに勝つ気でいるのかな)
空を、見上げる。
世界が魔法皇帝によって危機にさらされているなどとは思えないほど、今宵も青き星は美しく輝いている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ここは辺境に一番近い村・タムルー。
ナッシュ達は今、ここでアレスを待っていた。
アレスはレイクと共にマイトという人嫌いの天才科学者に会いに行っているのだ。
辺境へ向かうための、飛行船を作ってもらうために。
ガレオンを倒すために辺境へ向かうために。
(まぁ・・・アレスの場合、ガレオンを倒すのが目的じゃなくて、ルーナさんを助けるのが目的なんだろう けど・・・)
ルーナを助ける。
ただそれだけのために、アレスは進んでいる。
その途中に、ガレオンを倒す、という障害があるだけだ。
ドラゴンマスター・ダインに憧れていたアレスにとっても、ダインと共に戦った英雄・ガレオンは憧れで あろう。だが、憧れの存在よりも、何よりも大切な人を、アレスは選んだのだ。
ただ、それだけだ。
ナッシュは再び、無意識に溜息をついた。
ここのところずっと悩んでいた。辺境に近づくにつれ、日増しに悩みは深くなっていく。
確かにガレオンのやっていることは間違っていると思う。思うのだが、ナッシュは魔法ギルドでのガレオ ンを忘れられない。整った顔立ちのために少々気難しく見えるが、本当はとても優しい。
いつだったか、ガレオンについて小さな山村へと行ったときのことだ。
その村は毎夜モンスターに襲われて困っていた。そのモンスターをどうにかするために魔法ギルドから新 米の魔法使い達が数人、向かうことになった。もちろん、ナッシュもその中の一人だった。
新米の魔法使い達だけでは分からないことも多いだろう、ということでいつもは古株の魔法使いが一人、 共に行くことになっている。そのときはたまたま誰も手が空いていなかったせいで、ガレオンが共に行くこ とになった。ナッシュを含めた新米魔法使い達は興奮した。四英雄の一人、ガレオンと共に問題解決に出向 くのだから。
その村に到着し、問題のモンスターが現れると、ナッシュ達は早速魔法でモンスターを倒そうとした。誰 よりも早くモンスターを倒し、ガレオンの目に留まろうとして、みな躍起になっていた。
だが、ガレオンはそんなナッシュ達を諫めた。
驚くナッシュ達をその場に残し、ガレオンは威嚇するモンスターに近づいていった。
ナッシュ達はガレオンが何を考えているのか分からなかった。確かにガレオンならあの程度のモンスター に負けることはない。だが何故倒さないのか。
ガレオンは威嚇するモンスターの間合いぎりぎりまで近づき、モンスターと対峙する。それはほんの数分 であったのかもしれないが、ナッシュにとっては数時間に感じられた。やがてモンスターは威嚇をやめ、お となしくなっていった。そしてそのまま村近くの山の中へと去っていった。
戻ってきたガレオンに、思わずナッシュは尋ねていた。
「何故、あのモンスターを倒さなかったんですか? 倒してしまえばもう、襲ってこないのに・・・」
ガレオンはナッシュを見つめ、目を細めた。ナッシュは一瞬、怒られるかと思って首をすくめる。
「・・・あのモンスターには子供がいたのだ」
「子供・・・?」
「そうだ。この村の人間が不用意にあのモンスターの巣に近づきすぎたのだろう。だから襲ってきた」
ナッシュも、他の魔法使い達もガレオンの言葉に呆気にとられていた。
「子供までいるなら何故殺さないのですか?」
他の魔法使いの言葉に、ガレオンはいつもと変わらぬ静かな声で答えた。
「お前は自分の母親が危険にさらされても、殺されても、何もせずにいられるか? モンスターにも生きる 権利はある。確かにモンスターは私たちを襲う。だがそれは生きるためだ。むやみに襲ったりはしない。村 人がこれ以上、あのモンスターを刺激しなければ襲ってくることもない」
事実、そのモンスターは二度と村を襲うことはなかった。
だがナッシュは知っているのだ。あの後、ガレオンがあのモンスターの親子を別の場所へと移したのを。 そのとき、モンスターの親子に優しく微笑んだのを。偶然だが、見てしまった。
(ガレオン様を・・・倒すなんて・・・)
そして今日もナッシュは悩んでいた。眠れなくて宿の外で風にあたっていた。
3度目の溜息をつこうとしたとき。
「ホントにガレオン様を倒す気でいるの? ナッシュ」
聞き覚えのある声に慌てて振り返ると、屋根の上にロウイスが立っている。
「ウフフフフフ・・・ロウイスにすら勝てないのにガレオン様に勝てるわけないわよね」
ナッシュが言い返せずにいると、ロウイスはふわ、と屋根の上からナッシュの側に降りてきた。ナッシュ は思わず、身を引くが、ロウイスからは逃げられなかった。
「あら☆ そんなに怖がらなくても殺したりしないわよ。今は、ね。ウフフフフ」
「な・・・何が、目的なんだ・・・っ!」
震える声で、何とか声を出す。そんなナッシュを見て、ロウイスは目を細めて嗤う。
「ねぇ、ナッシュ、本気でガレオン様を倒せるなんて思ってないわよね? それなのにこのまま辺境まで来 たら・・・どうなるか。分かるわよね? エリートのナッシュ?」
バカにした言い方に、ナッシュはかっ、と耳まで赤くなる。
「うるさいっ!!」
思い切り、ロウイスを振り払う。だが、ロウイスにとっては大したことではない。
「あ〜ら、怖い☆ ウフフフフフ・・・このまま辺境へと向かったら・・・あなたのだぁ〜いじなあの子は どうなるかしらネェ?」
ロウイスの言葉に、ナッシュはさぁっと青ざめる。
「ミ・・・ミアに何をするつもりだ・・・!?」
「何もしないわよ、辺境に来なければ、ね・・・」
ナッシュの言動を楽しげに見つめながらロウイスは嗤う。そしてナッシュの耳元で囁いた。
「ナッシュ、これからのあなたたちの行動をロウイスに教えてちょうだい。そしたら、あなたの大事なあの 子には何にもしないわ☆ ホントよ。ウフフフフフ・・・」
「何を・・・バカなことを・・・」
敵に行動を知らせる。それは友を裏切る、ということだ。
「返事は今すぐでなくていいわ☆ しばらくはこの近くにいるから、呼べば来てあげる」
とん、と軽く地を蹴ってロウイスは宙に舞う。
「賢いナッシュ、あなたの返事を期待してるわ」
微笑みながら、ロウイスは一瞬で消えた。
後に残されたナッシュは、ただ力無く、地面を見つめるだけだった・・・。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アレスとレイクがマイトの塔から帰ってきた日。
ナッシュはロウイスを呼んだ。
飛行船で、辺境に向かうことを伝える。
「ふぅん・・・なるほどね☆ じゃぁ、ナッシュ、そのままアレス達にくっついていなさい。そして飛行船 ができあがったときに破壊するのよ。そうすれば諦めるし、あなたの大事なあの子も傷つくこともないわ」
「本当に・・・ミアには何もしないんだな?」
俯いたまま、ナッシュはロウイスに確認する。ロウイスは嗤って頷く。
「ガレオン様の邪魔をしないなら殺す必要なんかないわ☆」
ロウイスの言葉にナッシュはほっとする。そんなナッシュを見てロウイスは目を細めて嗤う。
「そうだわ☆ ナッシュ、飛行船を壊してくれたらお礼にあなたにものすごい力をあげるわ」
「ものすごい・・・力?」
「そうよ☆ 次期ヴェーン当主のあの子と釣り合うくらいのすごい力よ。もちろん、あの子を守れるくらい 強いわよ」
「ミアと釣り合う・・・ミアを、守れるくらい、強い力・・・」
それがあれば、もしもロウイスが約束を破ってミアに何かしようとしても、ミアだけは守れるかもしれな い。
あんなに不安だったのがウソのように消える。ナッシュは意気揚々と村へと帰っていった。
小さくなっていくナッシュの背中を見つめながらロウイスは嗤う。
「バカなナッシュ。かわいそうなナッシュ。お前がその力を制御できるかしらね☆ ウフフフフフ・・・」
ロウイスは嗤いながら空へと消えた。
〜あとがき〜
勢いで(数時間で)書いたのできっと後から読み返して削除したくなるんでしょう(笑)。
な住さんが投稿を募集するとか書いてたから書いてみました。
勝手に想像した「ナッシュが何故裏切ったのか」話です。マジにこんなコトがあったどうかは定かでない。
なんかねー、ナッシュをフォローしようと思って書いたのに、何故かアレスを表現する言葉がちょっと誉め すぎ(笑)でガレオン様が優しいところが強調しすぎ(笑)とか、書きながら思ったけどまぁいいか(よく ない・・・)。
しかしべたべたなタイトルやなー・・・(もーちょっとどうにかならんかったんか、自分・・・)
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